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Channel: 野球:海外/独立リーグ
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メキシコベラクルス州リーグを行く 1

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 メリダから12時間近く。ベラクルス州アカユカン。こんなところを訪ねる日本人などまずいないだろう。かく言う自分も野球がなければまずここに来ることはなかったと確信できる。 なんの変哲もないメキシコの田舎町。メキシコではこんな小さな町でもプロ野球が行われる。メキシコには夏冬問わず大小のリーグが展開されており、そこで少ないながらも扶持を得ながらプレーする選手が無数にいる。ベラクルス州には現在、「リガ・ベラクルサナ・エスタータル・デ・ベイスボル(ベラクルス州野球リーグ)」という名のリーグがある。シーズン開幕直前までは、「リガ・エスタータル・インビエナル・ベラクルサナ(ベラクルス州冬季リーグ)」と名乗っていたのだが、なぜなのか名前を変えてしまった。でもなるのだろうか。「エスタータル(州の)」と名乗ってはいるものの、とくに財政的な援助は受けていないようだ。 数年前までは、「リガ・インビエナル・ベラクルサナ(ベラクルス冬季リーグ)」を名乗っていたが、なかなか経営が難しいようで、かつてあったホームページもいつの間にか閉鎖、リーグの開催期間も年をまたぐこともなくなり、今季からはついに週末のみ試合を行う「セミプロ」状態になってしまった。改名は地域密着を押し出してのものだろう。 それでも、各球団は選手全員に報酬を支払い、練習は毎日行っているという。だから「アマチュア」を自称するメリダリーグなどとは違い「プロ」を自称している。 このリーグのチャンピオンは、カリビアンシリーズに出場できないパナマ、ニカラグア、コロンビアの各リーグのチャンピオンと覇を競うラテンアメリカシリーズに出場していたが、それには変わりがないという。しかし、これまで1月いっぱいまで行ってたシーズンをプレーオフを含めて年内に終了してしまうことになったので、シーズン後もオープン戦を重ねて国際シリーズに臨むという。 このラテンアメリカシリーズ、今季はニカラグアの首都、マナグアにできた新球場で行うらしいが、チリ、アルゼンチン、オランダ領キュラソーも加わるらしい。この3か国・地域にはいまだプロリーグはないはずなので、国内リーグのチャンピオンが出るのか、代表チームが出るのかわからないが、ラテンアメリカの野球は我々が思う以上に発展しているようだ。 このベラクルス・リーグの中心的球団が、ベラクルス州の州都、ハラパをホームとするチレロスだ。オーナーはイグナシオ・バスケス氏。なんでも運送業で財をなしたらしい。彼のチームの財源が豊かなことは、ティーバッティングに使うボールが新品だったことからも見て取れる。相手チームのトビスなんかボロボロのボールを使っていたが、マイナーリーグではそれが当たり前だ。 おまけに、この名物オーナー、プレゼント用のミニボールをこの日のビジターゲームにたんまり持ってきて、試合中にバンバンスタンドに放り込んでいた。おかげで観客は試合そっちのけでボール獲りに夢中になり、挙句の果ては、ボールをゲットした少年やボール争奪戦には勝てずそれでもどうしてもボールを欲しい小さな女の子が、いつの間にかボールやサインをねだりに試合中のベンチ前にやってきたりする。そんなカオス状態の中、トビスに勝ち越しホームランを打たれたときは、オーナーは苦虫を噛んだような表情を浮かべていた。 ともかくもこのリーグの運営は基本、ハラパ球団がしているようだ。さらに言えば、その球団運営は、チームのリーダー、フランシスコ(フランキー)・リベラ氏によってなされている。ハラパにホームがあるが、選手の大半はハラパから車で1時間ほどの大都市、ベラクルス周辺に住んでいるようで、試合の際は、フランキーの実家前で集合解散となっている。ここに2台のチーム用の番がやってきて試合場まで選手を運ぶのだ。草野球か旅劇団のような感じだ。 ちなみにチームの監督もフランシスコ・リベラ、主力打者のひとりにも同名の者がいる。その彼、アンヘル・フランシスコ・リベラは、現在もメキシカンリーグのカンペチェでプレーしている。彼もまた元マイナーリーガーで、2008年から3シーズン、セントルイス・カージナルスのA級でプレーしている。数年前までは、冬は「メジャー」のリガ・メヒカーナ・デ・パシフィコの人気チーム、トマテロス・デ・クリアカンの一員となっていたが、夏のメキシカンリーグでも控えに甘んじている彼クラスの選手が報酬の高いこのリーグでプレーするのはなかなか難しいようだ。ここでは彼とて対した報酬をもらっていないが、「ここでは報酬はどうでもいい。チームメイトはみんな友達なんだ」と意には介していないようだ。 ちなみに、スペイン語圏では同姓同名は珍しいことではなく、ミドルネームや母方の姓もつけることで区別ができるのだが、普段はニックネームで呼び合うので問題ないようだ。同名の3人は実は親戚で監督はフランキーの叔父、アンヘルの方はいとこということだ。  フランキー自身は1997年から4シーズンシンシナティ・レッズのマイナーでプレー、その後、メキシカンリーグで2014年まで12シーズンプレーし、実に8球団を渡り歩いたジャーニーマンだ。現在は、ベラクルスリーグでプロ野球選手としてプレーする一方、普段はビジネスをしているという。ビジネスが順調なのは、玄関横に店舗が付いている彼の大きな実家に親戚が3世帯ほど入っていることからうかがい知ることができる。 ともかくもフランキーが、このベラクルスリーグ取材を取り仕切ってくれた。しかしながらメキシカンらしく、言うことはころころ変わる。メキシコシティに着いてから連絡すると、「とにかくプレーオフの始まる土曜にベラクルスに来てくれ」と言うので、夜行バスでとにかく向かうと返事すると、「バスターミナルまで迎えに行ってやる。選手と一緒になるが、球場まで連れていく」とのありがたい言葉をもらったのだが、次の日には、それはあっさり撤回されていた。おまけに試合会場も当初聞いていたベラクルス州のハラパではなく、アカユカンという聞いたこともない町になっていた。調べると、州南部の海岸線近くの町であることがわかったので、土曜にメリダに向かい、そのまま引きかえしてベラクルスリーグを見ることにした。 ところが、いろいろ調べてみると、試合会場は別の町のようだ。どうもアカユカンの郊外みたいだが、果たしてたどり着けるか不安になる。とりあえず、メールにてフランキーに連絡すると、「試合はオルタでする。我々はアカユカンのホテルに泊まっているから、そこに来てくれ」という返事が返ってきた。幸い、アカユカンのターミナルにはバス会社のWIFIが通じており、ホテルの名を地図検索すると歩いて10分くらいのところにあることが分かった。フランキーに連絡すると、「来てくれ。俺は今からシャワーだ」という返事が返ってきた。

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