「もう一度挑戦してみたかったんだ。NPBにね」と久々に顔を合わせたアメリカンは、日本に舞い戻ってきた理由を端的に語ってくれた。(スティーブ・ハモンド) スティーブ・ハモンド、2013年から2年間、オリックスに在籍していた元助っ投だ。マイナーから台湾へ渡り、さらに2012年にBCリーグの石川に入団。ここで圧倒的な実力を見せつけ、NPBという夢をかなえた。日本の独立リーグは現在、外国人助っ人の登竜門としても機能している。 残念ながらオリックスでは、ほとんど二軍暮らしで2年目の2013年シーズン途中に解雇され、再び石川に戻ったが、今回、夢を再びとばかり、福島ホープスへの入団を決めた。昨年は、アメリカ独立リーグの最高峰、アトランティック・リーグのシュガーランドでプレー、冬はベネズエラにも渡った。彼もまた究極のジャーニーマンだ。「アトランティック・リーグもBCリーグもそんなに変わらないよ。リトルマネーね」 とにかくもう一度NPBの舞台に挑戦することが、一番の理由だ。来日以来ひじの調子がおもわしくなく、開幕以来いまだ登板がないが、近々先発の予定だ。 ホープスには、日本人ジャーニーマンの姿もあった。この冬、オーストラリアのウィンターリーグに挑戦した後藤真人だ。環境を変えたいと、昨年、それまで在籍していた四国アイランドリーグプラスの強豪、香川を退団し、退路を断って臨んだ豪州挑戦だったが、結局日本の独立リーグでのプレー継続の道を選んだ。「話はいくつかあったんです。メキシコのマイナーやアトランティック・リーグからもスカウトを通して連絡はあったんですが、どれも確定的なものではなかったんです。メキシコなんか、監督もまだ決まっていないような状況でしたから(笑)。ドイツのチームからもあったんですが、やっぱりレベルの高い方がいいなと」 すでに27歳。「少し遅いのかもしれませんけど」と言いながら、今シーズンがNPBへの最後の挑戦と位置付けている。だからこそ、日本に戻って来た。 「ドイツは、移動費滞在費は全て負担してくれるので、実質の給料は結構いいんです。ただシーズンが4か月と短いんで。最初はそれを利用して、7月まで向こうでプレーして、それから日本の独立リーグでプレーするっていうのも考えたんですけど。結局、オーストラリアのシーズンが終わって帰国してすぐに、BCリーグのトライアウトがありましたので、受験して受かったのでこっちに決めました」 夢を叶える場でもあり、あきらめる場でもある独立リーグの厳しい現実がここにはある。オーストラリアでの「暑い冬」を過ごした後藤にとって福島の春は体を縮こまらせるには十分だったようで、開幕後なかなか調子は上がらなかった。5月を迎えようやく調子が上がってきたので、いいところを見せていきたいという。 「今後」については、まだわからないとしながらも、「日本ではNPBに行けなかったら、もう終わりですかね。ヨーロッパで続けるってのも考えています。でも、あっちではもう野球一本というより、次の生活のためのことも考えながらって感じになると思います。冬にオーストラリアで生活して、いい経験になったので、ヨーロッパもいいかなと。ドイツなら、がんばって欧州選手権なんかに出れば、オランダやイタリアなんかの上位リーグからも声がかかるかもしれませんし」 年々重ねる年齢とまだ動く体。セカンドキャリアになかなか進めない選手も多いのも現在の日本の独立リーグの現実のひとつだ。この日、久々に見た顔の中には、すでに数年前に独立リーグから去った者もいた。2リーグ4球団を渡り歩き、最後は無給でプレーしていた。すでにアラサーを迎えながら、「練習生で入れてもらったんですよ」と、試合前のグラウンド整備をするその姿に独立リーガーたちの悲哀が浮かび上がる。 キャリアの終盤をここで迎えようとする選手もいる一方、新たに夢への第一歩をしるした選手もいる。久岐志衣磨(登録名・志衣磨)は地元福島の高校からホープスに加入したルーキーだ。ハモンドのようなベテランが、「まだまだアマチュアレベルの者も多いけど、彼らは発展途上。そういうリーグなんだよ」というこのリーグでも、高校を出たてのルーキーにはついていくのがやっとのようで、「とにかくやばいっす」と初めての「プロ野球選手」体験を語る志衣磨。前日の試合で2試合目のスタメンマスクをかぶったが、その感想も「やばかったです」だった。 この日の試合は、NPBのオールスター戦も行われたいわきグリーンスタジアムで行われた。福島先発・高堀(元東北楽天)は、いきなり富山の先頭打者・岡野(前橋育英高)に左中間を破る3塁打を許す。そして四球で1,3塁としたところで、3番大上戸(大東文化大)のセカンドゴロゲッツーの間に富山は1点を先制した。(高堀和也) 一方の富山先発は藪上(町田高)。こちらも先頭は打ち取ったものの、ポテンヒットなどもあって、2アウト満塁のピンチを迎える。ここで助っ人のフリーマンを迎えるが、穴の多いこの打者はあっさり三振に打ち取られてしまう。 それでも2回に2アウトから9番佐々木(東日本国際大)のライト前ヒットを足がかりに、スチールのあと、1番小倉(国士舘大)のタイムリーで福島は1点を返した。(小林祐人) その後、試合の主導権を握ったのは福島だった。3回にも笹平(神村学園高)、小林(埼玉栄高)の安打で1点を入れ逆転に成功した福島は、4回にはフリーマンのタイムリーなどで一挙4点を入れ試合を決めた。(笹平拓己)(ケルビン・フリーマン) ここで福島は、1失点の先発・高堀をあっさりあきらめ、2番手野地(二本松工)にスイッチ。野地はベンチの期待に応え、この回を無失点に切り抜けると、福島はその裏、さらに2点を加えた。福島ベンチは、6回からは、小林(登録名・佑輔, 聖望学園高)がマウンドに送ったが、1アウトも取らないうちに2失点。なんとかこれだけの切り抜けたものの、リーグ全体に共通しているリリーフの層の薄さが如実に出た試合だった。なお、この試合、福島の岩村監督が代打で登場、BCリーグ初ヒットを放ち、メジャーリーガーの貫録をみせつけた。(スタジアム前のテント。放射能の濃度が掲示されている。まだ震災は終わっていない)
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