閑話休題。キムチテギュンバーガーで有名な元千葉ロッテマリーンズ、現ハンファイーグルスのキム・テギュン(金泰均)内野手、実は来日当時、テジョン(大田)大学社会体育学科の大学院生でした。キム・テギュンは高卒でプロ野球選手になったのにどうして現役プロ野球選手が大学院生なのか?と疑問を持たれる方もいらっしゃることと思いますが、これには韓国ならではの事情があります。大学院に進学するためにはそもそも大学の学部を卒業して学士号を持っておく必要があります。キム・テギュンは2005年にテジョン大学に入学し、2009年に学部を卒業しています。おそらく大学院には2009年に入学したものと考えられます。そして2005年に大学に入学したのは徴兵の延期を目的としたものであったと考えられます。徴兵延期のために大学入学をすることは韓国のプロスポーツ選手や芸能人にはよくあることで、近年では通信制の大学(サイバー大学)に入学する選手が多く見られます。プサン(釜山)に本拠地を置くロッテジャイアンツの場合はヨンナム(嶺南)サイバー大学、テグ(大邱)に本拠地を置くサムソンライオンズの場合にはテグ(大邱)サイバー大学を利用するケースが多いようです。その他、キョンヒ(慶熙)サイバー大学はネクセンヒーローズと提携しているそうです。ちなみにキム・テギュンのケースは大学の広報大使に任命されており、大学側としては地元ハンファイーグルスの4番打者を入学させることで人気アピールをする意図もあったと思います。後にはリュ・ヒョンジン(柳賢振)投手もテジョン大学社会体育学科に入学しており、同じく広報大使に任命されました。首都圏への学生流出に苦慮する地方大学の苦労を窺い知ることができます。ところでキム・テギュンはなぜか学部時代は地質工学科(工学部)に入学しています。本人に関心があったのか、そのあたりの詳しい経緯は不明です。ほんとに謎…。キム・テギュンは大学入学後の2006年にWBCで活躍しており、兵役免除を受けました。すなわち大学院進学に関しては徴兵の延期が目的ではないことが分かります。大学院は社会体育学科を選択していることから、引退後のセカンドキャリアまで見越しての進学であった可能性も考えられます。まあ学部時代は地質工学科を選択するくらいなので、どういう考えなのかよくわかりませんが…。単に勉強が好きだっただけかもしれません。一方でセカンドキャリアを見据えて大学院に進学したと考えられる選手もいます。ハンファイーグルスに入団して現在はLGツインズに所属するユ・ウォンサン(柳元相)投手です。(→成績等詳細は過去記事)参照)ユ・ウォンサンの父は元プロ野球選手のユ・スンアン(柳承安)であり、過去にハンファの監督を務めたこともあります。ユ・スンアンがプロデビューを果たした2006年、父スンアンはモグォン(牧園)大学の社会体育学科を卒業して同大学の大学院に進学、そしてその息子ウォンサンも同大学フランス観光学科に入学しています。短期的に見れば徴兵延期が目的ではあります。しかしウォンサンも学部卒業後は大学院に進学して2013年には社会人野球が会社員のストレス軽減や健康等にどのような影響を及ぼすかを考察した修士論文を提出しています。父スンアンはコーチ研修のため渡米した経験もあることから、プロ野球引退後のことも考え息子に修士号取得を勧めたのかもしれません(韓国では「修士」でなく「碩士」ですが)。この他、SKワイバーンズのキム・グァンヒョン(金廣鉉)投手は2008年の北京オリンピック金メダル獲得で兵役免除を受けた後、2010年にコングク大学(建國)大学体育教育科に入学しており、将来指導者になることを想定(この場合プロ・アマを問わない)した上での行動だと考えられます。現役プロ野球選手の大学進学は兵役制度の副産物と見ることが可能で、実際に大部分のケースがそれに該当します。しかし今後は大学進学が単なる徴兵延期を目的とするに留まるのではなく、セカンドキャリアの手助けとしても有効に活用されていくべきだと考えます。
2015年から1軍のプロ野球球団が10球団に増え、プロ野球選手が増加することを見越すなら、彼らの引退後の進路を考える必要も出てきます。アマチュア野球の裾野があまり広くない韓国では日本以上に高卒で入団する選手の割合が高いので、より真剣に考える必要があるかもしれません。勿論、プロスポーツ選手や芸能人を多く受け入れるサイバー大学などでは、そこまで考慮した教育(野球とは関係ないセカンドキャリアまで含めて)を行ってはいるでしょうが、要は選手本人の意識が問題になってくると思います。現状では、今回主に取り上げたような兵役のことを考える必要がなくなった選手(キム・テギュンとキム・グァンヒョン)の方が将来まで見越した進路選択ができているように思います。この他、キム・テギュンの後輩、リュ・ヒョンジンも2012年に大学院に進学したと見られます。兵役問題は選手にとって最も差し迫った問題のひとつですので、多くの選手はそれより先のことを考える余裕はあまり無いのかもしれません。さて、キム・テギュンに話を戻すと、日本球界進出時には大学院を休学していたようです。2012年に韓国球界に復帰したとき、復学を予定しているとのニュース記事がでました(ニュースの主な内容はリュ・ヒョンジンの大学卒業と大学院進学挑戦でキム・テギュンはオマケ扱い)。現時点でキム・テギュンの修士論文は確認できていませんのでどのような研究生活(?)を送っているのかは不明ですが、もしかすると将来修士号を取得するかもしれません。過去の事例では1990年にウォングァン(圓光)大学で修士号を取得したキム・ボンヨン(金奉淵)が2002年にグクトン(極東)大学社会体育学科教授に就任しており、高麗大学で修士号を取得したマ・ヘヨン(馬海泳)は2010年からテギョン(大慶)大学のスポーツ健康学科の兼任教授に就任しています。もしかしたら将来、大学院生キム・テギュンではなく大学教授キム・テギュンを見ることができるかもしれませんね(笑)。まあ、現実的にはキム・テギュンが引退した後、大学院での勉強・研究成果が指導者や解説者として役に立ったら、と思います。それにしてもキム・テギュン、あれだけ試合に出場しててよく工学部卒業できたな、と思います。一体どんな仕組みで単位を取ったんでしょうか。競技が違いますが高麗大学に進学したフィギュアスケートのキム・ヨナ(金姸兒)の場合も色々問題になっていたので、何か単位を取らせる方法はあるのでしょうけど。
↧