ベラクルスリーグの決勝シリーズは12月の第3週と4週に5戦3勝制で行われた。最初の週の土日はアカユカンで、次の週は金土はハラパで、最終の第5戦は再度アカユカンに舞台を移して行われた。 試合前、フィールドを走るトビスの選手に声をかけられた。日本でやっていたのかと聞くと、自分のいとこがプレーしていたので、一度行ったことがあるという。 彼の名は、アブラハム・エルビラ。メキシカンリーグ17シーズンで30勝のベテランピッチャーだ。35歳になった2017年シーズンも地元アギラスデロッホス・デ・ベラクルスでプレーしている。ウィンターリーグ最高峰のメキシカンパシフィックリーグでも3度プレーしているが、2010-11年シーズン以降は記録が残っていなので、その後はここベラクルスリーグでプレーしているようである。 いとこの名は、ナルシソ・エルビラ。ミルウォーキー・ブリュワーズでメジャーのマウンドに立ったここベラクルスの英雄で、2000年と2001年に今はなき近鉄バファローズでプレーし、ノーヒットノーランも達成している。 このリーグには、メキシカンリーグでプレー経験のある選手が多い。その中には、この2017年シーズンもこのメキシコ最高のリーグでプレーしていた者も6人いる。フランキーのいとこであるショートのアンヘル・フランシスコ・リベラは、2008年から3シーズンはアメリカにわたりカージナルスのA級で168安打を放ち、その後、メキシコに戻りここ2シーズンはピラタス・デ・カンペチェで在籍し、2017年も50試合に出場している。(アンヘル・リベラ)メキシカンパシフィックリーグでもプレーしたこともあるが、ここ数年は冬をこのリーグでプレーしている。むろん、パシフィックリーグの方がギャラも高いし、実際は、その「メジャーリーグ」とは契約を結ぶことができなかったのだろうが、彼自身は、「金はいいんだ。このチームはアミゴで成り立っていて心地いいからね」と故郷ベラクルスでプレーする理由を挙げていた。試合後、チームの車の開催場所に迎えに来ていた、奥さんと子供の姿をみると、やせがまんなどではなく、本当に家族との時間を過ごすため、このリーグを選んでいるのかもしれないとも思った。 その他にも、かつてメキシカンリーグでプレーしていたベテランもいる。この日、レフトを守っていたセラフィン・ロドリゲスなどは1000本安打も達成した名選手だ。彼らは現在はこの冬のシーズンだけプレーしているようだ。ある選手などは長いシーズンオフはタクシーの運転手として働いているという。 ラテンアメリカの野球で総じて言えることだが、客の集まりは非常にのんびりしている。ようやく試合30分前になってちらほら集まり、一番入場ゲートがにぎわうのは、試合直前から試合序盤だ。この日も、試合開始時と5回終了時を比べると、倍ほどの違いがあった。試合後半には、1.3塁ベースまでしかない6段ほどの小さなスタンドはほぼ満員、ライトにだけある外野席も日陰になる最上段は観衆で埋まっていた。その間にある芝生席と言っていいのかどうかわからないようなスペースにも人々は椅子を持ち込み観戦している。 試合はそれなりに締まりながらも、点を取ったり取られたりの緊迫したものとなった。チレロスリードでそのまま逃げ切るかと思われた試合は、継投のため、終盤に動いた。(レネ・コス)先発のメキシカンリーガー、レネ・コス(デュランゴ)からこれまたメキシカンリーガーのロドルフォ・アギラールという盤石のリレーで逃げ切りを図ったチレロスだったが、このアギラールが思うようなピッチングができず、トビスの4番、エリセオ・アルダサバ(カンペチェ)を迎えたところで敬遠、5番のキューバ人助っ人ラウデル・ベルデとの勝負を選ぶが、ここで左対左ということで起用された3番手ヘースス・モランの初球をベルデは叩き、打球はそのままライトフェンスを越えて逆転ホームランとなった。 この1発で試合は決まり、トビスは1勝1敗のタイに持ち込んだ。 試合後は、両チームのオーナーが互いの健闘をたたえあった。試合中、オーナーからもらったトビスのキャップをかぶって写真撮影をする僕を見て、チームのメンバーとともに怒り繰りながら、ある控え選手のキャップを取り上げ、僕の頭にのせていたバスケスオーナーも試合後は、柔和な顔に戻り、トビスのオーナーとキャップを交換し、チレロスマークの入ったグラブをプレゼントしてご満悦だった。 試合後は、ビジターのチレロスの一堂にはトビス側から缶ビールが振舞われた。それと同時に運ばれた、チキンとトルティージャ、スープの食事が配られてフィールドに座り込んで遅い昼食をとる。僕にも声がかかり、ご相伴にあづかった。 食事が終われば一行は再び車に分乗し、ホームタウン、ベラクルスに向かう。チームの本拠は、そこからさらに100キロ先のハラパにあるが、チームのメンバーのほとんどはベラクルス周辺に住んでいる。ベラクルスまで約4時間。郊外のチームリーダー、フランキーの屋敷前でいったん一同は解散となり、各々家族の迎えの車で家路についた。その風景はまるで草野球のようだった。市バスでベラクルスの町に出るという僕をフランキーは引き止め、屋敷内の彼の家族親戚に僕を紹介した後、車で送ってくれた。 最終戦までもつれたプレーオフは、3勝2敗でトビス・デ・アカユカンが優勝を飾った。ハラパで行われた4戦目を見るべく、僕は取材先のグアダラハラから夜行バスに揺られてメキシコシティまで行ったが、あいにくクリスマスラッシュのハラパ行きのチケットをとることはできなかった。結局、謎のウィンターリーグ、ベラクルスリーグの取材は1戦だけに終わってしまった。 チャンピオンとなったトビスは、ラテンアメリカシリーズに出場する。優勝決定から1月末のラテンアメリカシリーズまで期間が開くが、練習試合などでブランクを埋めるという。*ニカラグアで行われるラテンアメリカシリーズに出場予定だった、チリとアルゼンチンは出場を取りやめ、今回はベラクルス、ニカラグア、パナマ、コロンビアに初出場のキュラソーの5か国で争われる模様。なお、キュラソーにも新たにウィンターリーグができたようだ。野球旅はまだまだ続く。
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