ハリスコ州グアダラハラ。メキシコ第2の都市だ。スポーツではサッカーが圧倒的人気でこの町のチーム、グアダラハラと首都メキシコシティのンクラブ・アメリカとの対戦は伝統の一戦、クラシコと呼ばれている。日本で言えば、大阪のようなところか。 しかしながら、野球人気はいまひとつで、かつて夏のメキシカンリーグのチームがあったが、ずいぶん前になくなってしまっている。それでも近年は野球人気も高まってきているのか、今年春に開催されたWBCメキシコラウンドは、首都メキシコシティに適当な球場がないこともあり(前回使用した2万5000人収容のフォロソルは、野球から撤退し、現在はコンサート会場専用に戻っている)、この町で開催された。メキシコで野球と言えば、北部の工業都市、モンテレーが有名だが、来年はメジャーの公式戦も開催されるこの町をさし置いてこの国際大会が開催されるのは、メキシコ球界がこの大都市を重要なマーケットと位置付けているからなのだろう。春のWBCに続いて、この冬のシーズン後にはカリビアンシリーズが初開催されることも決まっている。 そういうことから、ぜひともこの町のチーム、チャロス(カウボーイの意)にはリーグ優勝してもらいたいところなのだが、残念ながら、現在、メキシカンパシフィックリーグの下位に沈んでいる。 この町の長距離バスターミナルは、市バスで1時間もかかる郊外の町にある。将来的には都市鉄道で結ばれるようで、現在ターミナル前に高架ができているのだが、しばらくは不便を強いられる。 ターミナルにはWBC仕様のバスが停車していた。 球場も市内ではなく郊外の町にありこれがなかなかアクセスしにくい。地下鉄の駅構内にチャロスのショップがあったので、ここで球場への行き方を尋ねると、北行きの電車の終点まで行き、バスに乗り換えろという返事が返ってきた。まあバスで直接行くよりはその方が速いだろうと、終点まで15分ほどかけて行き、そこでバスに乗り換えた。現在2路線あるうち南北を結ぶ路線は町を囲む環状道路が終点らしく、ここから西行きのバスの運転手に声をかけると、球場まではいかないが「近く」まで行くということなので、これに乗った。コンベンションセンターらしき大きな建物が見えたところで降ろされる。ここまで計30分。 しかし、ここからが結構歩かされる。直線距離なら1キロくらいだが、ガードマンが見張るハイソな住宅街を通って球場に着くと市の中心からおおかた1時間かかった。距離にして10キロほどなのだが、アクセスは非常に悪い。 ちなみに2日目はセントロ(町の中心)からの地下鉄を途中のアビラ・カマチョ駅で降りバスで向かったが、ここも球場近くを通るバスを捕まえるのに一苦労、やはり1時間くらいかかった。この駅が将来的には球場前まで行く鉄道の乗り換え駅になるようで、現在ここから球場方面へ延びるアビラ・カマチョ通りの上を線路の高架が走っている。 おまけに試合後はなんと公共の交通機関はほぼない。試合開始が7時過ぎなので通常試合が終わるのはだいたい10時過ぎ。この町のバスや地下鉄は11時には終わるので、試合が少し長引けば後はタクシーくらいしかない。この日も、試合後選手のインタビューなどをして10時半ごろ球場を出て、表通りのバス停に行ったが、郊外方面行はまだバスがあったが、グアダラハラ市内方面のバスは結局来なかった。タクシーかと思ったが、幸い同じくバスを待っていた若者3人組が白タクを捕まえたので、これに便乗させてもらった。彼らとともに、深夜までにぎわう飲み屋街で下車、誘われたのでバーでミッチェラーダ(タバスコなどが入ったビールのカクテル)をあおった。彼らはこの日のビジターチーム、マサトランのファンで、明日はクリスマスの帰省を兼ねて、バスで太平洋岸のマサトランに移動、観戦するという。メキシコ第2の都市ということもあってこの町には地方出身者も多く、そのためビジターチームのファンも多い。 球場前も現在、高架鉄道が工事中で2020年にはアクセスもしやすくなるらしいのだが、一体今は皆試合後どうやって帰っているのか聞いたところ、やはりタクシーかウーバー、それが嫌ならバスのある時間に切り上げるのだという。バスのあるうちに帰れば、道は空いているので、セントロまで30分くらいで行く。 ともかくもWBCも開かれたこの町の球場は、その名もまさに「エスタディオ・チャロス」。スタンド入り口正面には、メキシコ人メジャーリーガーのパイオニアと言っていいい、あのフェルナンド・バレンズエラの銅像がある。またスタンド外の球場敷地内には、この町で活躍した往年の名選手の胸像もあり、その中にはブリュワーズなどで活躍したテディ・ヒゲラのものもあった。ヒゲラは1985年、前年限りで西武を退団した江夏豊とメジャー枠を最後まで争い江夏に引導を渡した投手だ。彼はこの年二ケタ勝利を挙げ、スターダムにのし上がった。 メキシコでは、資本関係など関係なく、その町にあった野球チームは同じ系譜に位置付けられ、チーム名も同じものをつけることが多い。たとえて言うなら、福岡ソフトバンクホークスは西鉄ライオンズの後継球団で、名前も「福岡ライオンズ」であるべきなのだ。ここで顕彰されている選手たちはかつてのサマーリーグのチャロスに貢献した者たちで、こういうところにメキシコ野球の特色が現れている。 エスタディオ・チャロスは、外からメインスタンドを見ると、野球場とは思えない。それもそのはずで、もともとは、2011年のパンアメリカン大会の陸上競技会場として造られたものなのだ。大会終了後、サッカーに利用しようにもすでにサッカークラブ、「グアダラハラ」は立派な競技場をもっており、その必要はない。ならば野球にと、2014年にウィンターリーグのアルゴドネロス・デ・グアサーベを誘致し、新生チャロスとし、その本拠としたのだ。 野球に使用するに際し、2層の横長のメインスタンドの下に野球用のフィールドを囲むように桟敷席を新造し新たに野球場としてスタジアムを利用することにしたのだ。したがって上層スタンドは端に行けば行くほどフィールドから離れていき、下層のスタンドも座席は 内野フィールド方向に席がついているわけではない。正直野球観戦には適した球場だとは言い難い。左翼右翼のポール際に行くほど上層スタンドと下層スタンドの隙間が広くなっていくが、ここには売店を設置してスペースを活用している。
1,3塁側にできてしまう広大なスペースにはレストランが設けられ、生演奏のスペースまであるのは、いかにもマリアッチのふるさとであるこの町の特色が出ている。 また、映像で見る限りWBCの際は外野席があったが、仮設スタンドだったようで、現在はフェンス際に4箇所ほど、レストラン席が設けられていた。その奥には競技場のサブスタンドの土手がいまだ残っており、仮に野球チームが撤退しても、競技場に再利用できるようになっている。(スタンドにあったメキシコの「すし屋」。日本のものとは全然違うが)
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