前回の記事で韓国プロ野球のドラフト指名方式を整理したので今回は今年開催されたドラフトの指名結果を見てみましょう。なお今年2016年に開催されたドラフトのことを韓国では2017年新人指名と呼んでおります。2017年新人指名とはすなわち2017年にデビューする選手を指名するドラフトのことを指します。 指名結果を表に整理した後、全体的な傾向と球団別の意図をまとめていきます。表では選手名の塗りつぶしの色はポジション、所属の塗りつぶしの色は高卒/大卒(2年制大学等も含む)/海外派で色分けしています。○全体傾向(前回記事と一部重複します) 最近の傾向と同じく今年も投手の上位指名、大卒選手に対する高卒選手の優位性が目立つ結果となった。1次指名を含めると大卒選手は110人中24人に過ぎなかった。 今年度の大卒予定者はNCが参加した2度目のドラフト(2013年新人指名=2012年開催)の時の高卒指名対象者であり、プロ指名選手が増えた分、大学進学者の層が薄くなった可能性がある。大卒は高卒に比べ即戦力として評価しなければならないが、即戦力となり得る大卒があまり多くない現状を反映している。3軍に相当する組織(呼び方は「育成軍」など球団によって様々)を持っている球団が増え、大卒獲得よりも高卒を自前で育成する方に効率性を見出している球団が多いと見られる。しかし急速な立て直しを図る球団やktのように戦力の不足している球団にとっては、即戦力となる選手をドラフトで獲得するのが難しいのは望ましい状況とは言えない。 高卒では来年あたりから、幼少期に北京五輪に触発されて野球を始めた選手が増えている世代に差し掛かることもあり、高卒偏重の傾向はしばらく続くものと見られる。 即戦力として期待できる大卒が少ない分、その役割は海外からのUターン選手に求められる。プロやアマなど海外球界でプレーした選手のうち投手2人、捕手1人の3人が2次1巡目という高順位で指名された。一方で彼ら「海外派」の選手たちは合計で4人しか指名されず狭き門となった。能力もしくは期待値、年齢、ポジションの需要との合致があれば上位指名に結びつくが、そうでない場合は指名自体に至らない可能性も高い。外野手としてドラフトに臨んだソン・サンフン(元中日ドラゴンズ/兵役未了)がドラフトでは指名を得られなかったのはその象徴とも言えよう。 地域別に見ると今年は例年に比べプサン圏の選手の上位指名が目立った。一方でキョンギ圏のうちktの縁故に含まれる高校在学者及び出身者は2次指名で高卒3人、大卒1人しか指名されなかった(うち2人はそれぞれ留年と転入が理由で1次指名対象から除外されており、1次指名対象者のうち2次指名に回ったkt縁故高校で最上位の指名は2次6巡目ハンファ指名=2次全体55番目のキム・ジフン)。ktの縁故地域の高校はユシン高を除くと新設校など戦力の整っていない高校が多いため、今後縁故地域のアマへの支援を拡充させていく必要がある。 ドラフトで指名されなかった選手はプロ入りする場合には育成選手として契約することとなる。NCが参入し球団数が増え始めたあたりから、選手枯渇に備え各球団が育成選手を確保しその数は増加傾向にあった(ドラフト指名選手の実質的育成選手化、戦力外選手の獲得や育成転換も含む)が、今後もその傾向が続くのか不透明である。昨年オフはLGとSKがドラフト外での新人育成選手の獲得を見送った。10球団体制になりドラフトで指名される選手が増え、また各球団のスカウティングも昔に比べ堅実になって選手情報収集の均質化が進んだこともあり、ドラフト指名外から掘り出し物を見つけるのは難しくなっている。急激な球界の変化に対し遅れている競技の裾野拡大がこれから進展していくことを願う。○球団別整理(個別選手がよくわからないため主に球団側の視点で整理しています)
kt
2次指名では1~2巡目で高卒投手有望株、3巡目で地元スウォン出身の高卒外野手、ドラフト中位で高卒捕手、ドラフト下位で一発のある高卒と大卒の野手を獲得した。一方で1次指名では実績より素材型の投手を選ぶこととなった。スウォンのユシン高には2年生のキム・ミンという投手がおり、来年の1次指名は今年より期待できそうである。 昨年は投手の指名が多かったが、今年は意外にも野手の指名が目立った。しかし2次指名の上位指名投手の質は高く、高卒野手も2次3巡目の俊足巧打のホン・ヒョンビン、2次9巡目の長距離砲ハン・ギウォンともに個性が際立っている。高卒投手で才能ある右腕を指名した一方で左腕は大卒から選択した。指名順の恩恵を受け、質とバランスともに充実した指名となった。
LG
指名選手全員が高卒、そして11人中8人が投手という一見すると偏った指名となった。しかし近年のドラフトでは野手も十分に指名してきており、あまり問題はないと思われる。外野手の指名がないが、度重なる外野手コンバートで外野の人員が飽和状態となっているため、これも問題ない。 指名した高卒投手の中でも1次指名コ・ウソクと2次1巡目の長身左腕ソン・ジュヨンはそれぞれ注目が高い。彼らを含む上位指名の投手は全員将来的に楽しみな素材である。3巡目のイ・チャンユルは先発投手としての適性も見込まれる。野手では2次4巡目のキム・ソンヒョプが守備位置こそ一塁手に限定されるが、体格に恵まれており発展の可能性がある。ロッテ プサン圏の投手が例年になく豊作だった今年は1次指名で大型速球派投手ユン・ソンビンを指名した。制球など課題もあるが素材としては今年のドラフトでナンバーワンと言える。 2次指名では1巡目で高卒捕手最有力のナ・ジョンドクを指名したことが注目される。指名段階で地元キョンナム高の左腕イ・スンホも残っていたが、それを抑えての指名となった。現時点でも若手捕手有望株を保有しているが、ポジションを考慮するよりも残っている中で最も評価している選手を獲得したと見られる。 2次2巡目でも投手でなく右打内野手のキム・ミンスを獲得したが、1次指名を含めても内野手全体で3人目の指名であり期待値は高く、とりわけ長打でのアピールを楽しみにしたい。若手を中心にチームの内野手の人材は決して豊富とは言えないので、将来的にその穴埋めができるよう成長を遂げて欲しい。
KIA
例年他球団より比較的高順位で内野手を指名する印象のあるKIAだが、今年は2次2巡目まで投手を指名した。1巡目ではロッテが捕手ナ・ジョンドクを指名したため高卒左腕イ・スンホを指名することができた。2巡目も投手を指名したが、キム・ヘソン(ネクセン2次1巡指名)やキム・ミンス(ロッテ2次2巡指名)が2巡目まで残っていたら指名していた可能性はあったかもしれない。2次2巡目のパク・チンテは大卒のサイドスロー投手であり即戦力としての活用が期待される。 2次3巡目で指名したキム・ソックァンは1次指名候補でもあった地元の高卒外野手であり、将来的にフランチャイズスターとして成長が期待される。ハンファ チーム事情が影響してか投手中心の指名となった。特に2次1巡目のキム・ジニョンは兵役による実戦感覚の不足を補えば即戦力として期待でき、補強ポイントに合致している。 一方でチーム内に若手がチ・ソンジュンくらいしかいない捕手で指名がなかったのが意外である。ただ縁故地域に期待される2年生捕手が複数いるとのことであり、捕手有望株の指名は来年に持ち越しとなったようである。その分、今回は上位指名された投手たちに期待したい。 なおハンファはリハビリ中の選手や育成選手を含めると選手団の規模が大きい部類に属す。オフには野手を中心に大幅な戦力の整理が行われるかもしれない。
SK
2次1巡目でキム・ソンミン、2次6巡目でナム・ユンソン(改名前ナム・ユニ)という2人の海外派左腕を獲得した。SKはこれまで右腕チョン・ヨンイル、外野手キム・ドンヨプのように海外派の選手が戦力となっており、即戦力としての期待もあると思われる。但しキム・ソンミンは兵役を終えておらず、ナム・ユンソンは新人としては年齢が高いというネックを抱えている。 それ以外は比較的上位を高卒で固め、大卒は中~下位で指名している。また投手と野手のバランスに配慮した形となっている。トレードにより長打力が特色のチームとなったが、人材が攻撃的ポジションに偏っているため、新人と既存の若手を競わせ少しずつチームバランスを整えていきたい。ネクセン 高卒中心の非常にネクセンらしい指名となった。ここ2年は昨年1次指名の捕手チュ・ヒョサンを除くと上位を中心に投手を多く指名し野手は下位に回す傾向にあったが、今年は1次指名と2次1巡目で野手を指名しており、イム・ビョンウクやキム・ハソンを指名した2014年新人指名と類似している。2次2巡目以降は5人連続で高卒投手を指名し、下位4人は全員野手というはっきりとした方針が見られた。ネクセンはこれに加え近年は他球団より早めに大卒育成選手の確保に乗り出してきたが、今年も同様にするか注目される。 1次指名イ・ジョンフ、2次1巡目キム・ヘソンともにコンタクト能力に優れた左打内野手である。投手では2次3巡目で指名されたヤン・ギヒョンが高校及びネクセンの先輩に当たるパク・チュヒョンを彷彿とさせる体躯と投球スタイルを持っており注目される。
NC
レギュラー捕手キム・テグンの兵役が解決されておらず捕手の補強が急務である中、2次1巡目で海外派捕手シン・ジノを獲得した。1次指名では高卒世代最高捕手ナ・ジョンドクと左腕投手キム・テヒョンの2人の有力候補を置いて後者を選択したが、ナ・ジョンドクは2次指名でNCの順番が回ってくる前に指名されてしまった。チーム事情を考えると捕手の補強としてはナ・ジョンドクよりシン・ジノの方が良かったかもしれない。加えて将来を見据え攻撃型の高卒捕手イ・ジェヨンも指名した。 大卒は2次9巡目の投手キム・ホミンのみであり、11人中9人が高卒で占められた。また捕手を除くと投手中心に指名した。去年最終順位が3位だったため指名順は不利であったが、1次指名キム・テヒョン以外にも、比較的上位で指名したキム・ジノとソ・イヒョンの両高卒投手を長期的に育てる自信があると見られる。サムソン 球界全体が投手指名を優先する中で、投手の指名が11人中4人にとどまり、数的には野手に比重が置かれた。但し入隊中の選手を含めると、現時点の所属選手でも、まだ1軍戦力とはなっていないものの有望株と見なせる投手は少なくなく、今年1次指名の大型右腕チャン・ジフンとプサン高で活躍する2次2巡目のチェ・ジグァンも十分に期待できよう。野手では2次8巡目のクァク・キョンムンは指名こそ下位にとどまったが地元の大型一塁手として将来が嘱望される。一方、指名順の関係もあって上位で有力な高卒内野手の指名を逃したのはチーム事情を考慮すると望ましくない。 またイ・フンニョンの入隊に備え、大卒捕手の中では最も評価の高いナ・ウォンタクを2次2巡目で指名した。2次5巡目でも大卒捕手チェ・ジョンヒョンを指名したが、近年のドラフトでサムソンが捕手を指名する場合はこのように大卒を選ぶ傾向にあった。この2人に加え今オフに尚武から除隊するキム・ミンスを正捕手イ・ジヨンのバックアップとして競争させる形となろうか。トゥサン 1次指名及び2次1~4巡目までの5人を投手で固めた。他球団よりも先発投手は安定している一方でリリーフ投手が不足しているチーム構成上、1次指名チェ・ドンヒョンと2次2巡目キム・ミョンシンという大卒投手には即戦力の活躍が求められる。またチェ・ドンヒョンと2次1巡目のパク・チグクがともにサイドスローである点も注目される。 昨年韓国シリーズを制覇したため指名順では不利であったが、上位ではリリーフ即戦力という特色を出すことで他球団の指名と差別化を図ることができた。また2次7巡目のペク・ミンギュは技量の面ではまだ課題があるものの高校生離れした体格を持ち、右打巨砲として成長の可能性を秘める。
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