今回は、2012年、13年シーズンを過ごしたアメリカでの話を聞いた。新天地を目指して、アメリカ独立リーグの強豪、アメリカン・アソシエーションのグランドプレイリー・エアホッグスでプレーした西本。2Aに匹敵すると言われるこのリーグで、ショートのレギュラーとして通算.264の打率を残した。しかし、渡米当初はシーズンロースターに入ることもないだろうと思っていたという。なにしろたった10日のキャンプ期間で、アピールしないとリリースされてしまう厳しい世界だ。日本から単身やってきた新参者が簡単にレギュラーを取れる確率は決して高くない。それでも、プレーそのものでは困ったことはなかったという。最初に立ちはだかったのは、言葉の問題だった。「やっぱりバッティングのサインでもそやし、初球から行けとか、待てとか、サイン出なくても打席に入るまでいろいろ言われる時があるんですよ。はじめはなに言っているのかわからなかったですね。そういうときは、場面を読んで対処しました。同じ野球なんで。幸い、間違っていたことはなかったですが。普段の生活でも、もちろんありましたよ。レストランで注文するときとか。でも、それくらいは大きなことではないですね。それは何とかやっていけました」そういう環境の中でも、西本はチームに溶け込んでいった。「チームメイトとのコミュニケーションはうまくやっていたと思いますよ。とくにドミニカ人とは仲良かったですね。結構ラテン系はどんちゃん騒ぎしてうるさいっていいますけど、うちのドミニカンはそういう風ではなかったです。監督もそういうのはきらいだったので。そういう点では環境は良かったですよ。アメリカ人とも、もちろんうまくやりましよ。でも、彼らは気が良すぎて、世話を焼いてくれ過ぎるので、しんどくなったことはありました。もちろんそれもありがたいことなんですけど」 雇用期間がキャンプからシーズン終わりまでの9か月で、試合は週末が中心という日本の独立リーグとはスケジュールのハードさも全く違った。給料が出るのは、長くて4か月。その間、ほぼ毎日試合が組まれている。「まあその点については、アイランドリーグの場合、去年から、前後期の間に選抜チームのアメリカ遠征を挟むようになったから、平日も試合をするようになりましたよね。アメリカ(のマイナーリーグ)に近い感じになって、いいと思います。ただ、他の選手は6,7月は練習だけになるんで、かわいそうな気もしますが」 毎日の試合に週2回は長距離のバス移動。しかし、西本はこれについては、別段苦にならなかったという。そういう苦労より野球の本場でプレーする喜びの方が大きかったのかもしれない。 渡米には将来のビジョンのひとつである指導者としての幅を広げる意味もあった。日米の野球の違いを体感できた意味は大きかったと西本は言う。「やっぱり向こうは型にはまってないですね。はめることもないですし。ただ、僕はアメリカの野球がなんでもいいとは思いません。真似しようとも思わないですね。向こうでは、むちゃくちゃなフォームからすごい球投げるやつなんかもいますが、僕は僕だし、僕自身、きれいなフォームの方が好きなんで。でも、アメリカはとりあえず結果さえ残せばいい。そういうところは良かったです。ベンチでも、全くないことはないけど、日本みたいに変な政治がないですね。でも、やっぱり、上下関係もあるにはありますよ。監督は監督やし、先輩後輩関係もあります。 プレーに関しては、こっちに関しては、逆に、もっときちんとした型でやればもっと良くなるのにと思うこともありますね。だから、きちんと指導されればいい選手になるやつは多いです。また、バントやエンドランも、やるなら、それができるような練習をしておけば、いいなとも思います。でも、向こうは、それで失敗しても、それだけでクビになることはないし、日本みたいにボロカス言われたりもしません。日本じゃすぐにレッテル貼るでしょ。あいつは適当な奴やって。どちらがいいとは一概に言えないけど、日本だと失敗すると追い込むでしょ。でもアメリカでは、その時は『しっかり決めてくれ』って言うけど、次行こうって感じですよ。ただ、アメリカは待っている選手はいっぱいいますから、同じ失敗を繰り返したら、クビになるだけです」 そういう西本は、今年は3年ぶりにアメリカでプレーしようとも考えている。かつてのボスが、昨シーズンから独立リーグの最高峰、アトランティックリーグで、指揮をとり始めたからだ。このリーグは、3Aにも近いレベルと言われており、惜しくもメジャー契約ならなかったベテラン選手が、フリーエージェントとしてシーズン中にどこのチームとも契約できるようプレーするリーグである。「アメリカならどこでもいいってわけじゃないんです。去年もシーズン中に連絡があったんですけど、ビザの関係とかもあって断念したんです。それなりのところでないとね。監督にも僕にもメリットがあるようなら行きます。エアホッグスでは、GMじゃなく監督が人事権握っていたんですよ。ちょっと王様気質で、自分が息子のようにかわいがっている選手を集めるんですよ。その中でGMともうまくやっていってたんですが、新しいGMが来て、人事権を握ろうとしたんですよ。だから監督さん、次の年にクビになって、アトランティックリーグに移ったんですよ。僕はもうその時は日本に帰ってましたけど。去年、連絡があって、どうだって言われたんで、今年は行こうと思っていたんですが、人事権が思うように握れなかったのと、給料のこともあったんでしょうか。アトランティックも辞めてしまったんです。だからどうしようかと思っているんですが」 西本は、まずは前年在籍した高知で2016年シーズンをスタートさせる。
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