今シーズンからktウィズが1軍参入し10球団1リーグ体制となるKBOリーグ(韓国プロ野球)。新生球団ktが開幕から連敗を重ね初勝利がいつになるのか注目が集まっていた中、1軍参入3年目のNCダイノスは順調に勝ち星を重ね、一時は単独首位にまで浮上した。4月12日段階では首位と1ゲーム差の3位に後退したが、NCを除く上位チームが戦力に劣るktとの試合を既に1カード終えているのに対し、NCはktとの対戦無しでこの順位にいることを考えると最高の滑り出しであったと言える。 ktは開幕11連敗でスタートすることになったが、NCも1軍参入初年の2013年は開幕8連敗を喫した。だが1年目の最終成績は9チーム中7位、2年目はペナント戦の勝率3位でポストシーズンへの進出を果たした。その躍進の理由は2013年はリーグ2位、2014年はリーグトップというチーム防御率の良さにある。チーム防御率が良かったのには、1軍参入2年目まで外国人選手を他チームより多く保有できるというアドバンテージの影響もあったが、もう1つ守備力の影響を挙げることもできる。1軍1年目は確かに失策こそ多かったが、打たせてとるタイプのチャーリーらが活躍したのは守備陣の働きによるものもあろう(後述)。 NCは2013年シーズン後に2人のFA選手を獲得した。1人は遊撃手ソン・シホン、もう1人は主に中堅を守る外野手イ・ジョンウクであった。安定した守備が持ち味のソン・シホンは荒削りでエラーの多かった内野守備を引き締めるのに貢献し、チームの守備の更なるレベルアップを呼んだ。そしてイ・ジョンウクの獲得理由にも守備との関係性があった。 2013年、NCで中堅手として最も多く出場したのは大卒2年目のナ・ソンボムであった。ナ・ソンボムはNCの2軍参入に先立って開かれた2012年新人ドラフト(2011年8月25日開催)で投手として指名されたが、2011年の秋季キャンプの段階で早くも外野手転向となった。2012年はNCが2軍戦のみであったため、そこで経験を積み、2013年に満を持して1軍デビューを果たした。怪我で多少出遅れたものの、打率.243、ホームラン14本、打点64と初めての1軍でのシーズンとしてはまずまずの活躍をした。 だが打撃で頭角を現したナ・ソンボムは本格的に外野手に転向してわずか2年であった。慣れない守備の影響かシーズン後半に打撃成績が下がってきてしまった。そこでオフのイ・ジョンウク獲得によってナ・ソンボムを右翼手にコンバートして守備の軽減を図り、彼の打撃の一層の向上を図ったのである。ナ・ソンボムの代わりに経験と実績のあるイ・ジョンウクに中堅手を任せれば外野全体の守備力が落ちることはないと考えたのである。 元投手であるナ・ソンボムは肩が非常に良く、右翼手コンバートは有効な一手と見られていた。ところが実際にやってみると思うようにはうまくいかなかった。 課題は打球処理にあった。コーナー外野手はフェンスプレイなどでの打球判断がより要求されるためコンバートが困難であったと韓国の新聞記事は見る。主に中堅手を守っていた選手であり外野手経験が豊富なイ・ジョンウクを右翼手として活用する方が無難という最終結論に落ち着いた。 中堅手ナ・ソンボム、右翼手イ・ジョンウクで迎えたNCの1軍参入2年目、ナ・ソンボムは打率.329、本塁打30、打点101を記録し、チームの3番打者として無くてはならない存在となった。一方でイ・ジョンウクは打率.288を記録し勝利打点を10(リーグ7位タイ)上げるなどチームを勢いづける活躍をしたが、リーグ平均打率が.289という打高の中で前年の.307から打率を落としてしまった。決して悪い成績ではないが、イ・ジョンウク獲得に高額の資金を費やしたことを考えると少し寂しい数字であった。 そのためシーズン最終盤、キム・ギョンムン監督はイ・ジョンウクを中堅手、ナ・ソンボムを右翼手でスタメン出場させ、シーズン前に一度は断念したコンバートを敢行したのである。これにはナ・ソンボムが怪我で欠場していた期間にイ・ジョンウクが本来の守備位置である中堅手で出場した際、打撃成績がよかったという経緯が作用している。当初はナ・ソンボムのためであったコンバートが、今度はイ・ジョンウクのために企図されたのである。 ナ・ソンボムの外野手本格転向4年目である2015年、NCの開幕戦ラインナップには2番中堅手イ・ジョンウク、3番右翼手ナ・ソンボムの名前があった。昨年実戦で試したナ・ソンボムの右翼守備が思いの外改善されており、今回はスムーズにコンバートできたものと見られる。 2014年はチームの核としてナ・ソンボムを機能させるために意図したコンバートが、シーズン中の経験と成長によってナ・ソンボムに余裕が生じたことにより、2015年はチームのバランスと調和をとるためのコンバートとなった。 昨年準プレーオフで敗退した若いチームが更なる高みを目指すためには、まだまだベテランイ・ジョンウクの経験が必要であり、4番テームズの破壊力を活かすためには選球眼の悪い3番ナ・ソンボムにもこれまで以上の出塁が求められる。 外野手間のコンバートは一見大きな変化ではないと感じる人が多数であろう。しかし後に振り返ってみるとNCのキーマンである2人とチームの今シーズンの飛躍が掛かった重要な変更となるかもしれない。<参考表>2014年守備位置別打撃成績 ※便宜上、同じ選手であれば守備位置に関係無く同じ成績を残せるものと仮定して計算☆NCの守備に関して NCは2013年のチーム失策は3番目に多かったが、DER(守備効率)ではNCは0.713とリーグで最も良く、リーグ平均の0.692を大きく上回った。また2014年もDERはトップの0.697を記録しリーグ平均の0.677を上回り、失策の多さも7位にまで下がった。 DERはインプレーの打球を野手がチームとしてどれだけアウトにしたかという指標であり、チーム全体の守備力を判断する際にある程度であれば材料となる。無論、ピッチャーの打たれた打球のコースや強さとの兼ね合いもあるので単純に守備力を図るものとは言えないが、NCの投手成績が良かった背景には守備陣の隠れた活躍があったのではないか。防御率からFIPを引いた値は2013年が-0.44、2014年が-0.80であり、単純な投手力ではない要因の防御率に対する影響を想定することができる。チャーリーやハッカー(昨年までの登録名はエリック)のように打たせてとるタイプの投手が多くのイニングを消化していたので、守備が防御率に与えた影響は大きかったように思う。
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