WBCの総括と今後について書いてみました。話がバラバラでまとまらないので、項目別に分けて書いています。繋がりなくだらだらと書いてます。自分に向けた備忘録のようなものですが、今回のWBCと今後のWBCに向けて考えるきっかけにでもなれば嬉しいです。①WBC消滅報道の話昨年11月、ESPNのクリスチャン・モレノ記者が「今大会で十分な利益があげられない限り、ワールド・ベースボール・クラッシックの大会が終了する可能性のあることを、複数のニュースソースから聞いた」とツイートしたことを発端に、彼のツイートを引用する形で米メディアが報道。日本のメディアもそれに続いた。結局この話はMLBコミッショナーの「WBCの開催時期やシステムなどの改善点について話し合ったりすることはあるが、WBC自体をなくすというアイデアは出ていない。私がコミッショナーである限りWBCは継続する」という発言によって一蹴されることになる。ただ冒頭の報道の信ぴょう性は別にして、日本の世の中的に「あっやっぱりそうなんだ」的なとらえ方をする人が多かったことは、ある意味闇が深い。日本の野球ファンのWBCに対するイメージが出ていたような気がする。個人的にはマンフレッド(コミッショナー)の発言を待たずして、少なくとも「収益」を理由としてWBCが廃止されることはないと考えていた。
WBCというのは大会単一の収益が目的ではなく、野球の国際的な市場を広める先行投資的なイベントである。MLB全体の収益の大きさを考えてみると、WBCが大会単一の収益だけが目的なのならば、すでになくなっているように思う。
2014年のMLBの開幕戦はクリケット場を改造してオーストラリアで開催され、今度はロンドンで公式戦を開催するとも言われている。単にイベント単一の収益を考えるならばわざわざ海外でそのようなことをする必要はないだろう。もちろん、WBCも赤字ならオーナーたちから賛同を得るのは難しい。一定の収益を得なければならない事情はあるものの、この大会はやはり先行投資の色が強いものだととらえるべきだと思う。もうひとつ、MLBはかつて国際野球連盟に資金援助する見返りとして、IBAF(国際野球連盟)が主催していた世界選手権である「ワールドカップ」を廃止して、WBCを野球界の世界選手権にあたる大会として公認するよう要求したという経緯もある。
MLB側も、半永久的に継続してこの大会を育てていきたいという意思を基本的に持っているように思う。もしWBCがなくなるとしたら①MLBが国際市場の開拓の手段の一つとしてWBCを有効と考えなくなった②MLBが国際市場の開拓そのものをやめるの二つだと思う。これも今の時点では考えにくいとは思うが・・。一方で、WBCという大会がMLBの都合次第でどうにでもなる大会であることを再認識させられるようなニュースだったとも言える。プレミア12をはじめ、WBC以外のプロ参加の国際大会を成熟させていく必要性も改めて感じさせられた。②今回のカリブ勢の話今大会が「各国が本気になった大会」ととらえる人が多かった最大の要因は、ドミニカ、ベネズエラ、プエルトリコ、メキシコといった国々が豪華なメンバーを揃え、かつ大会への準備と高いモチベーションを元に戦っていたことに尽きると思う。前年秋に日本遠征も行い、エイドリアン・ゴンザレスの呼び掛けによって選手のリクルーティングにもしっかり成功していたメキシコは失点率の解釈の違いもあって1次ラウンド敗退。初優勝に向けた並々ならぬ思いが大会前からだだ漏れしていたベネズエラはプレッシャーからか終始ちぐはぐ感が拭えず、テレビゲームみたいな最強メンバーを揃えていたドミニカも二次ラウンドで消えてしまった。もう「本気度」で差をつけることが出来なくなってしまったことを裏付ける結果が残ったが、流れとしては前回の第三回大会からのものを引き継いでいる印象だ。前回大会に関してもベネズエラとプエルトリコはわりとベストに近かった。ベネズエラは直前に大型契約を結んだフェリックス・ヘルナンデスだけが欠けており、プエルトリコは投手にメジャーリーガーがそもそも少ないという事情もあったにせよ最善に近い布陣だったように思う。優勝したドミニカはブルペンにフェルナンド・ロドニーを中心に強固なメンバーを揃え、打線と先発はそこそこという面々。もっとも戦力的に今回グレードアップしたのは意外にもドミニカだったように思うが、結果は逆になってしまったのが皮肉である。もうひとつ、小さな変化としていわゆるプロスペクトと呼ばれる選手の割合がこれらの国から格段に増えたのも今大会の特徴であった。ドミニカ以外は全ての投手をメジャーリーガーで固められる選手層を持っていないが、メジャーリーガーではない部分の枠がこれまではマイナーのベテランやメキシコでプレーする選手だったところから、若い有望株に置き換わっている。若いマイナー選手もみな当たり前のように93-5マイル級の球を投げていて、この部分にも大会のステータスの向上を感じさせられた。決して最初の二大会の日本や韓国、キューバの活躍がリスペクトされていなかったわけではないと思うが、あまり彼らにとってそれが身近には感じにくかった部分はあると思う。やはり前回ドミニカとプエルトリコが決勝まで勝ち進んだことが火を付けた部分は大きい。そして、おそらくこの熱はこれは次回大会以降もずっと継続されるはずだ。WBCという大会の格もワンステージ上がったように思う。第三回大会がそうであったように、彼らが今回ここまで情熱をかけて戦ったことが、また新たな化学変化を起こすことにも期待したい。③アメリカ優勝の要因の話4年前も、8年前も、11年前も、そして今回も、アメリカが「本気」だったかどうかを気にする声は相変わらず多かった。この議論は「本気」の定義が人によって異なるため、なかなかかみ合うことが少ない。というより、定義が一緒の人同士の場合はたぶん意見が割れることが少ないと思う。本気だと言っている人も本気じゃないと言っている人もある意味正しい。よその国のやる気を気にすることが野暮に思えたことと、意見が割れやすい話題ということもあり、自分はあまりこの話題を出すことは好きではなかったのだが、アメリカを総括するうえで避けては通れない部分でもある。純粋にメンバーの集まり具合で言えば、私の意見からするとさほど前回との変化はなかったように思う。日本戦の前には、アメリカ代表は全てがメジャーリーガーであること、球宴経験者が野手を中心に多く含まれていること、そして選手の年俸を併記する形で今回のアメリカがどういうチームであるかを伝えようと腐心するメディアも多かったが、2013年大会のチームもこれらの項目について特に今回と見劣りする部分はなかったと思う。今回少し野手は豪華になった反面、投手は13年大会は前年の20勝投手(ジオゴンザレス)やサイヤング賞投手(ディッキー)がいたし、クローザーはキンブレルだったことを考えると少し上だったかもしれない。野手にゴールドグラブ経験者を揃え、リリーフに多様なタイプを揃えるソリッドな編成も前回から共通する部分だろう。アメリカが今回優勝できたのは、一つは純粋に仕上がっている選手が多かったことに尽きる。これは編成権を持っていた前回大会監督のジョー・トーリ(今大会はアメリカ代表のゼネラルマネジャー)の色が出ていたのではないかと思われる。人脈の広さと自らの前回大会の経験を最大限に生かしたのではないか。特に過去の大会でも最大のネックになっていた先発投手の仕上がりの悪さは、むしろ今回は強みになっていた。ある程度状態を仕上げてくることを約束できるような選手にしかメンバーに入れなかったこと、予備登録選手を先発に活用し、準決勝で先発したロアークや、二次ラウンドべネズエラ戦で先発したスマイリーのように、「この1試合だけ」にさえピークを持ってくればいいような起用法が出来たことが作用したのではないか。状態が上がっていないまま出場していた選手が多かったことの象徴であった大会中の故障離脱者が多さ。ここも今回はゼロだった。二つ目はリーランドの采配。今回のアメリカも所属球団からの制限が多くがんじがらめ状態の中での采配だったようだが、そんな中でも状態の上がらないスター選手をベンチに眠らせたり、イニングの途中でスパっと投手交代をするといったこれまでのアメリカ代表ではあまり出来なかった勝負に徹した采配を出来たのも大きかったように思う。他に要因として挙げられるのは、組み合わせと層の厚さを生かしたチーム編成の部分。1次ラウンドで対戦したコロンビアはドミニカにもあわやサヨナラ勝ちという大健闘を見せるなど、好チームだったのは間違いない。ただ、ここがコロンビアではなくメキシコだったらアメリカは負けていたかもしれない。コロンビア戦は大苦戦を強いられ延長でようやく振り切るのだが・・。さらに今回はカナダのメンバーの集まりがかなり悪かった。1次ラウンドの時点では正直「いつものアメリカ」というような低調な試合も多かったが、ここを組みわけの妙により乗り切ったのは大きかったかもしれない。二次ラウンドの最終戦、ドミニカ戦の大一番で選手の状態はピークに近い状態に達したのか逆転勝利。ここで生き残ったことで、大会の佳境に入るにつれ状態が右肩上がりだった印象も残った。二次ラウンドで打ち込まれた同じプエルトリコ相手にストローマンが快刀乱麻のピッチングを披露し、打線がついに爆発を見せた決勝はその象徴だったように思う。
WBCはコンディション勝負という大会であると同時に、一部のトップ選手は出なくとも、層の厚さ=選べる選手の数の多さを生かして現場サイドの求めている色を出したメンバーを集めやすいアメリカの強みが出ていたのではないだろうか。様々なタイプのリリーフ投手を集め、野手は攻守を兼ね備えた穴のない選手を並べるという、編成の意図が見えるメンバーだったのは間違いない。一度成功体験を残すことが出来たのは大きい。今回の勝因をしっかり次回大会以降にも引き継ぐことが出来れば、同じクオリティのチームを作れるはずだ。④アメリカ代表をブランディングすることの可能性にもっと目を向けてみてもいいのでは・・、という話
WBCにおけるアメリカ代表とは、結局何のためのチームなんだろう・・。とふと思った。もちろん、選手たちはアメリカ人としてアメリカの野球ファンのために戦っていたという意識だったと思うし、ファンも自国の代表チームとして応援していたに決まっている。ただ、このチームが他国の代表チームのように自国の野球に大きく影響を与えるような存在だったとはやはり言い難い。アメリカ代表はアメリカの野球界のために戦っているというよりは、WBCという大会に権威をつけるためにできるだけメンバーを揃え、出来るだけ好成績を残すことを求められているチームだ。ここが変わらない限り、WBCという大会が本物の大会に近づくことは難しいように思う。逆にいえば、アメリカ代表がアメリカの野球界のために戦うチームになることが出来れば、そこに意義や可能性を見出す人が出てくるようになれば、WBCの抱えている諸問題も解決するのではないか。アメリカ代表はべネズエラ、ドミニカ、プエルトリコといった強豪国を下した。これらの三カ国は考えうるべストメンバーにかなり近い。アメリカは単に優勝を目標とするだけなら、今回くらいのチームで十分と言っていいだろう。アメリカ代表は出ていない選手にも一流選手が多かったが、出ている選手もほとんどが一流選手だ。国際化が進んだメジャーリーグは今や三割が外国人選手と言われているが、要するに七割がアメリカ人なのである。乱暴な言い方をすると、20球団以上はアメリカ人のメジャーリーガーだけでチームが作れる。その中から28人を選べばいいのがアメリカ代表なのである。現状のアメリカ代表でも優勝するには十分な戦力を有している。今大会出ていた選手の質にも疑いようがない。ただ、「ファンの見たいアメリカ代表」からはまだ随分と距離がある。「ファンの見たい代表チーム」を作れるかどうかは、結果と同じくらいその代表チームのブランド力や大会への関心を高める上でかなり重要な根幹を担う。
2009年大会のWBCにおける日本の盛り上がりは、日本人メジャーリーガーが勢ぞろいし、ファンが見たい代表チームが実現できたことが大きかった。常にイチローを始めとした日本人のメジャーリーガーが出揃わず、二次ラウンドくらいで終わってしまうような状況が初代大会から続いていたとしたら、今これほど侍ジャパンやWBCという大会のステータスが日本で上がっていただろうか。過去の大会で積み重ねた戦いや熱気の記憶が、今のWBCに繋がっている。アメリカ代表はこういった積み重ねがほとんどないと言ってもいいのではないか。個人的に感心したのは、2015年秋に行われた新設の国際大会であるプレミア12の日本代表だった。メジャーリーガーは出場できず、ウインターリーグなどともバッティングするため、他国の代表チームがどれくらいのメンバーが集まるのかかなり大会前は不安視されていた大会だった。ただ、日本はそこに流されることなくベストメンバーを送り込めたことによって、一定の盛り上がりと注目を得ることに繋がっていったような印象だ。特に馴染みのない新しい国際大会なだけに、どういったメンバーを集めるかによってその大会がどれくらいの価値を持つ大会なのか、その熱がなんとなくファンに伝わっていくものなんだと思う。よその国どうこう以上に、自国の代表チームが「ファンが見たかった代表」なのか否かがその国における代表の価値にも大会の価値にも繋がっていくものなのだと認識させられた。人が揃ってるからこそ人気が出るのか。人気があるから人が揃うのか。私はまず前者なのではないかと考えている。人々は訳知り顔で、なぜアメリカではWBCの人気がいまひとつなのか事情や背景を説明する。もちろん、そこで説明されていることは真実だと私も思う。オリンピックやサッカーの代表戦が大好きな日本と、アメリカが同じようにいかないことは私でもよく分かる。それでも、カーショーが投げてトラウトが打つアメリカ代表が、ポストシーズンのようなテンションで戦うイベントが実現すれば、アメリカのスポーツファンにとっても十分魅力的なエンターテイメントになりうるのではないかと私は信じている。野球のチームの優劣を付けるのにはポストシーズンで採用されている7試合制が妥当なのかもしれないが、エンタメ性で言えば一発勝負の方が絶対面白い。アメリカがフルメンバーを揃えても、そこに対抗できそうな国はたくさんある。アメリカのスポーツファンの肌感覚はわかないが、十分ポテンシャルがあるように見えるのは、私がWBCを好きすぎて盲目的だからだろうか。
MLBは地域密着型のスポーツとしては大成功しているが、全ての野球ファンが1つの試合のためにテレビの前に集まるようなイベントはないように思う。マンフレッドに言いたい。時間短縮も大事なことだと思うが、WBCを「カーショーが投げてトラウトが打つアメリカ代表が、ポストシーズンのようなテンションで戦う」大会に育てることの方がよっぽどアメリカの野球振興に繋がるのではないか?と。もし、MLBの組織の外側にいる人間や組織が、WBCに対する取り組みをMLBに働きかけるのだとしたら、切り口はここにあるように思う。特に自国の代表をブランド化し、世界で二番目のプロリーグであるNPBあたりは、働きかける上でかなり説得力のある存在のはずだ。
MLB自身が気づいていないような価値や可能性がWBCにはあるのではないか。アメリカ代表がWBCという大会のために、あるいは世界の野球の発展のために、言い換えるとヨソの国のためにある存在である限りは、根本的な変化はおそらく起こらない。アメリカ代表がアメリカの野球のために戦う。WBC発展のカギはここにあるように思う。⑤開催時期の問題の話
WBCという大会は、とにかく継続して歴史と権威を積み上げていくこと。これが唯一無二の発展の道だと考えられてきた。実際、今大会が盛り上がりを見せたのも、過去3大会の延長線上にあるのは間違いない。一方、WBCがどれだけ歴史や権威を積み重ねることが出来ても、今の開催時期では限界があることを感じさせられたのも今大会だったように思う。特に日本代表がそうであったように、先発投手の出場は依然としてハードルが高い。たとえWBC自体のステータスがさらに引き上げられて、メジャーリーグのエース級がこぞって参加するようになったところで、シーズン以降の戦いにリスクを負うこと自体は変わらないわけで、果たしてそれはいいことなのだろうかと考えさせられる。また、開幕ロースターを争う立場の選手が参加しにくい時期であることも無視できない部分だろう。日本だけでなく、いや日本以上に、特に中南米勢あたりはWBCよりシーズンを優先した選手に対する誹謗中傷が激しかったと聞く。国のために戦うか、チームや自分のキャリアを優先するか。この究極の判断を迫られる状況は選手にとってかなり酷なように思う。チームの立場に立ってみても同じだ。WBCに多くの選手を送り出したチームを「WBCに理解のあるチーム」という風に表現されることも多いが、プロとしてチームの利益だけを考えれば「理解のないチーム」の方がある意味正しい選択をしていると言えると思う。「理解のあるチーム」が損をするという矛盾した状況のままでは限界があるのではないか。ただ、シーズン中にまるまる開催することも現実性に乏しい。やはり現実的なソリューションとしては現地のメディアからアイデアが出ているように、春と夏に分断して開催することになってくる。個人的には1次ラウンドまでは三月の下旬に世界各国で開催して、二次より先を一週間アメリカで夏にコンパクトに開催する形を推したい。熱気自体も分断されてしまうデメリットは決して小さくないことは十分理解しているが、それ以上のメリットがあるように思う。・出場するリスクが少なく、各国ベストメンバーによるベストパフォーマンスが期待できる・アメリカの場合は他の主要なスポーツのイベントとタイミングが被らない・メジャーリーガーで主に構成されるチームも、極東開催の1次ラウンドにも参加しやすい。・1次ラウンドの結果が出た後に二次ラウンドの開催地が決められる。一括開催時のように、二次ラウンドの開催地が○○だから△△が勝ちやすいような組み合わせにする、といった配慮もいらなくなる(※同じアメリカ国内でも、この開催地は○○系が多い、といった要素はかなり組み合わせに影響を与えてきている)おそらく、MLBが現行の162試合から減らすようなことはないだろう。問題はこのための日程をどうやってこじあけるか。そこに賛同を得られるか否かになってくる。もしかしたら2年にまたがって3月に開催する、なんて可能性もあるのかもしれないし、前年の秋に1次ラウンドまで開催するというアイデアも現地メディアからは出ていた。オリンピックではシーズン中断を頑なに拒み続けてきたMLBだが、WBCはアメリカの中でやる自分たちが主催する大会。前者は彼らの利益と支配の範囲外のイベントであって、WBCとは別問題ではないかと思う。
MLBも予備登録制度の導入やカーショーやバンガーナーといった大物投手に対してもトーリGMを中心に色んな働きかけをしたようだし、どうすればこういった選手が参加しやすくなるかを検討した痕はかなり感じられる。それだけに、彼らが実は一番今の時期の開催に限界を感じているのではないだろうか。マンフレッドコミッショナーも、WBCを今のままでいいとは思っていないことはかなり伝わってきた。今大会の盛り上がりも、何か大会の形をドラスティックに変える上で後押ししてくれる部分はあると思う。ネゴシエーターとして知られるコミッショナーが色んなステークホルダーを説得しどういった解決策を見つけ出すか、期待してみる価値はあるのではないだろうか。⑥「強化試合」の話侍ジャパンに関しては、あの準決勝のアメリカ戦のことについてたくさんの論評がされている。でも、あのたった1試合にイメージが引っ張られすぎるのもどうなんだろう・・。例えば、あの試合の先発がロアークを引っ張ってこずにレイズの剛腕アーチャーのままだったら、普通にそれはそれでパワーピッチングでねじ伏せられていたような気がする。実際、パワーピッチャータイプのイスラエルの先発ゼイドを侍ジャパンは彼が降板するまでまでとらえきれていない。仮にそうだった場合、日本はパワーピッチャーに弱い的な論調が広がっていたのだろうか。勝ってしまった試合はどうしても悪かった部分の印象が薄れて有耶無耶になってしまうものだが、準決勝の敗戦に限らない検証が必要となってくるはずだ。それは置いておいて、実際に日本がアメリカの球威と動きを兼ね備えた速球をとらえられなかったことが敗因の一つであることは間違いない。この課題をどう克服すべきか、色んな議論が交わされていると思うが、個人的には「強化試合」をもっと有効に生かせるのではないかという提案をしたい。そもそも「強化試合」というのはどういう位置付けのものなのだろうか。主催する側の都合としては、侍ジャパンはどうやら春と秋に試合をやることが前提で固定のスポンサーの契約が成り立っているらしい。そういった主催側の大人の都合はいいとして、現場サイドはどうだったんだろう。
WBCを直前に控えた昨秋の試合はともかく、それ以外の特に春の強化試合。強化試合の意義や目的を選手や監督といった方々が口にする機会もそれなりにあったのだが、「日の丸を付ける誇り」的なことだったりとかフワッとしたものが多く、テクニカルな意味での強化試合の意義や意味を語る人はほとんどなかったように思う。もちろん、選手個々でそれなりにテーマを持っていることもあったのかもしれないが、基本的に主催する側も、現場も、見る側も、誰も強化試合を「強化」試合とは思ってなかったのかもしれない。アメリカ代表のピッチャークラスのボールを体験する機会は確かになかなかないが、強化試合だってそれを疑似体験するのには十分なチャンスである。例えば、二次ラウンド初戦のオランダ戦を思い出してみよう。先発のバンデンハークをノックアウトした侍ジャパンだが、実は二番手以降は思うように捕えきれていない。三番手に登板したシャーロン・マルティスの好投が大きかったように思う。マルティスはあの時点では所属チームが決まっていなかった。つまり、今年がWBCの開催年ではなく、オランダ代表が強化試合として来日していても登板していた可能性が高い。マルティスは150キロ近い重い癖球で日本の打者を詰まらせる投球であの熱戦を演出。さらにファンミルも153キロのツーシームを連発していたし、延長10回に青木を併殺に打ち取ったストイフバーゲンも常時140キロ後半のツーシームが持ち味の投手。この二人の所属もオランダのクラブチームである。日本戦に限らず、WBCを通じて高い投手力を見せていたオーストラリアも、所属先が決まっていない選手も多かった。要するに三月の強化試合で十分練習台になれる国は思いのほか多いのではないか。メキシコもメキシカンリーグ主体の投手陣が強化試合で日本を苦しめたことは記憶に新しい。秋に話を広げると、メジャー球を使うメジャーリーガーと対戦できた日米野球なんかは絶好の機会だったはずだ。春の強化試合も相手の守りだけでもメジャー球を使うというアイデアもあっていい。動くボールという視点で考えるのは一例であり、もっと「強化試合」を「強化する試合」としての意識を持って工夫をすればいくらでも生かしようがあるように思う。せっかく試合をする以上単なる「興行」で済ませてしまうのはもったいないし、スポーツというものは興行っぽくしないことが一番の興行になる。誰もがあの強化試合を「強化試合」としてとらえられるようになることが、色んな意味で必要となってくるのではないだろうか。⑦チーム別寸評最後に、国別の感想を書いてこの記事を締めたいと思います。・韓国韓国野球の失墜、的な記事もかなり多く出回っているものの、深刻にとらえすぎなくてもいいんじゃないかと。接戦で競り負けたイスラエル戦の1試合が全てだったという話。メジャーリーグに行く選手も出てきたし、国内プロ野球の年俸も随分あがっているし、おそらく今回のWBCの結果もプロ野球の盛り上がりには影響しないはず。むしろ選手の不祥事の多さの方が人気に影響しないか心配だったりする。とりあえず秋のアジアプロ野球CSで世代交代を加速させたい。・台湾台湾プロ野球選抜がうっかり日本に勝ってしまったことにより、台湾のお家騒動が日本でも広まってしまった。WBCではオランダや韓国と善戦しただけに、やはり足並みが揃っていなかったことが悔やまれる印象が残ったが、大会後に代表チームはCPBLが主権を握ることが決定し、事態はとりあえず収束の方向に向かいそうだ。出来ることならWBC前にやってほしかったけど。とはいえ国内の足並みが揃っていた地元開催のプレミア12も惨敗だったし、過度な期待は禁物である。国内だけでなく、米マイナー組の投手を揃えるリクルーティングにも代表を司るCPBLには期待。・オランダ豪華メンバーが揃った打線が機能するのは当然のこと。想像以上にピッチャーが粘ったことが好成績に繋がった。まさかバンデンハークが一番頼りにならないとは・・。ジャージェンスやマルティス、ファンミル、ストイフバーゲンがかつてのボールを同じようなタイミングで取り戻すという奇跡の代表だった。また、「オランダ連合」としての方向性も見えてきた。オランダ本国は投手を中心に、捕手あたりも育成できるようになれば、オランダ領組とバランスがとれて常に強さが維持できるはず。持ちつ持たれつの関係を加速させたい。・イスラエル今大会最も話題をさらったチーム。イスラエルでも多少話題にはなったようだが、野球の地位が上がるほどの影響を与えたとは言い難い。救いなのはイスラエルの野球は「ゼロ」ではないということ。ゼロには何を掛け合わせてもゼロにしかならないわけで。イスラエルの野球人口は5000人「しか」いないと報じられているが、5000人「も」いるのだ。1度の国際大会の躍進では大きな影響を与えられないが、粘り強く続けていけば20年後くらいには変化が出ているかもしれない。イタリア系アメリカ人を軸に欧州で結果を残してきたイタリアが近年マエストリや元メジャーリーガーのアレックス・リディを輩出するようになった好例もある。ユダヤ系企業の資金的なバックアップもあったりなど、のびしろを感じる要素は十分にある。・キューバ今回のキューバ代表は、ついに亡命組が参戦するのでは?と噂されていた。正直に言うと僕も結構それを期待していた。結局それは実現しなかったし、今回のキューバ代表は期待値で言えば史上もっとも低かった。しかしながら、このチームなりの魅力と意地を見せてくれたのではないかと思う。日本との開幕戦は何度も好守でくらいつき、二次ラウンドの日本戦はこの国の打者の層はなんて厚いんだと感嘆させられた。デスパイネだけのチームでは決してなかったように思う。一方、二次ラウンドは結局全敗するなど、現実を改めて突き付けられた大会だったと思う。これまで代表に多くの関心を払ってきた国民も、失望と言うより、もはや期待もされなくなってきつつあると聞くと寂しい。亡命組が解禁されるかどうかは分からない。ただ、今回改めてキューバ野球の層の厚さを見せつけられただけに、このまま落日していくだけなのは悲しすぎる。どうにか打開策がほしい。・オーストラリア投手力の下馬評はそこそこあったものの、予想以上に質と量を兼ね備えた投手陣が印象的だった。日本戦に投げた投手だけでなく、他の二試合に登板した投手のレベルも総じて高く、ここに加えてメンバーに入っていない選手の中にもマイナーの有望な投手が結構いたりと、少し未来は明るい。ただ、メンバー的にも組み合わせ的にも今回が初の二次ラウンド進出最大のチャンスだっただけに、あのデスパイネに許した痛恨の一球が悔やまれる。打線もタレントがいないなりに得点を奪える形をどうにか作りたかった。・中国前回大会と違い「振れる」選手を揃えているだけに、打線はそこそこやれるのではないかと思っていたら大違い。それを大会前に強調していた私は面目丸つぶれである。ただ、オーストラリアとの決戦が敗色濃厚になってからある傾向が浮き彫りになる。オーストラリアのリリーバー、バンスティーンゼルが150キロ級の速球ばかりを単調に投げ込み始めると、結構中国打線はとらえ始める。思えば前回も課題となっていたのだが、この人たちは変化球を全く打てないのだ。本格派のいないキューバの軟投派投手には手も足も出なかったあたりがかなり示唆的である。彼らは「ストレート7、スライダー3」みたいな意識の持ち方をして両方についていくようなことが出来ない。ストレート10でマン振りあるのみ。結果、速球と曲がり球のきわめて原始的なコンビネーションでメロメロである。ちなみに、北京五輪を控えて積極的に強化が行われていた時代はそんなことはなかった。五輪競技から外れ、海外遠征の機会が減り、アジアシリーズもなくなってしまったことも要因の一つだろう。国内の大きな大会を控えているということで、投手の足並みがまったく揃わなかったことを考えると、投手陣は結構頑張った。強化試合を含めて、試合が完全に崩壊したのはオーストラリア戦だけ。まあ、そのオーストラリア戦が最も重要だったのだけど・・。おそらく、中国は次回から予選に回る。課題は投手の足並みを揃えることと、変化球への対応力。今の中国は実力の近いチームと戦う予選の方が得るものも多いのではないかとも思ったりする。・アメリカイメージ的にはパワーやスピードのような表面的なものを好みそうなのに、実はどのカテゴリーでもチーム作りが合理的だったりするのがアメリカ代表。ちょっとサッカーのイタリア代表のようなところがある。とにかく層が厚いので、選ぶ側の色を出したメンバーを集めやすいのが大きな特徴である。老将ラソーダに率いられ、後にツインズで守備専ショートとして活躍したアダム・エバレットや堅守の一塁手として知られたミンケイビッチらを擁して戦ったシドニー五輪のアメリカ代表は、最強キューバの連続金メダルを阻止したことで知られるが、個人的にはそれを彷彿とさせるチームだったと感じた。・ドミニカ
7番にベルトレーのいる反則級の打線と、各球団のクローザー・セットアッパーが名を連ねるドミニカは、間違いなくロースターの時点では最強だった。1次ラウンドでは劣勢のアメリカ戦を二本のホームランでひっくり返すなど横綱らしい戦いを見せるも、二次ラウンドでプエルトリコとアメリカに敗戦したまさかの二次ランド敗退に終わった。チャンスでもフライをどんどん打ちあげるなど、とにかく拙攻が目立ち、選手個人もみな劣勢を跳ね返そうと力みまくる。
9イニングもあればそういったスタイルでも2-3本はホームランが出るのでそれなりに得点にはなるものの、打線の豪華さほど効率的に得点に繋げることができなかった。ドミニカ打線の面々は、例えばメジャーリーグの1球団に4-5人いればファンは相当心強いだろうが、9人全員がドミニカ人だと意外と淡白な打線になってしまうことを思い知らされたような気がする。野球って難しい。ピッチャーに関しては、投手個人個人はみなエゲつないボールを投げているものの、ほとんど右のパワーピッチャーにタイプが偏っているのもちょっと考えものかもしれない。・コロンビア初出場。グッドルーザーだった国の一つ。アメリカとは延長まで渡り合い、ドミニカにはあわやサヨナラ勝ちという瞬間まであった。メジャーリーガーが近年急速に増えてきたことでも知られ、選手たちは母国の野球の地位をさらに上げたいとモチベーションも高かった。カナダから勝利したことで次回大会の予選を回避することを確実としたことは、これ以上ない置き土産になるはず。・カナダメジャーリーガーの数や実績からすると、フルメンバーが揃えばいいところまで行ってもおかしくないはずが、今回はいつも以上にメンバーが揃わない。事情はアメリカに似ているところもあるが、アメリカのような圧倒的選手層もない。選手もわざわざ1次ラウンドで敗退するために参戦するのもなあ、、ということでこれまでの大会では出ていたような選手も欠場するなど負の連鎖が生まれつつある。悲願の1次ラウンド突破どころか、次回予選スタートが濃厚となってしまったが、この流れを断ち切るのはいつになることやら。・プエルトリコリンドーア、コレアを始めとした若いスター選手が徐々に台頭するなど、充実の戦力と見られてはいたものの、今大会もここまで躍進するとは予想できなかった。とくに不安視されていた投手陣は、プロスペクト系の投手やベテランが上手く組み合わさり、それをモリーナがリードすることによってむしろ強みになっていた。決勝では大敗してしまったが、言うまでもなく二大会連続準優勝は立派な成績。・ベネズエラ最も期待を裏切った国の一つ。優勝候補と目されていたが、けが人続出、ボーンヘッド、拙守で終始ちぐはぐ感は否めず。
1次ラウンドはかろうじて生き残ったプレーオフでイタリアに辛勝し勝ち抜け。二次ラウンドは全敗に終わった。二塁が本職のオドーアがサードで怪しい守備を連発し、その翌日に場当たり的に同じく二塁本職のアルデューベに三塁を守らせた采配は、日本の監督がやってたらそうとう叩かれてたはず。・メキシコ期待を裏切った国パート2。ブルペンにメジャーリーガーを並べる強力な布陣と、1次ラウンドのホームアドバンテージからダークホースと目されていた。ただ、打球が飛びまくる1次ラウンドの開催地エスタディオ・チャロスは高地で打球が飛びまくる魔境。少々の投手力の違いは無力化され、いかに殴り勝つかが問われる展開になってしまう戦いが中心だったが、投手力の高さが売りだったホームのメキシコが一番その特徴に割を食ってしまったのは皮肉としか言いようがない。失点率のいざこざにによる敗退は気の毒だが、元はと言えば初戦のイタリア戦を落とさなければ良い話。・イタリアイタリア系を中心とした今回のメンバーは投手力よりは打力が売りのチーム。ほとんど投手力の違いが無力化される戦いにおいて、メキシコと対照的に最も得をしたチームだったのかもしれない。初戦のメキシコ戦では9回に登場したメキシコのクローザーロベルト・オズーナから怒涛の攻撃で4点差を大逆転。結果的にこの1勝のおかげで次回大会も予選回避が濃厚となった。○おわりに今回は特にWBCを通じて世界の野球の面白さに目覚めた人も多かったのではないでしょうか
4年後を楽しみにしたい!と言いたいところですが、他にも色んな国際大会がこの4年の間には控えている。もちろん、それらの国際大会はメジャーリーガーも出なければ、プロ選手が出ない大会も多い。おそらく、WBCと同じものを求める人には全く楽しめない代物なのですが、それぞれの大会にはそれぞれにWBCとは違う、楽しみ方やツボがあるんですよね。それを自分なりに伝えていきながら、一緒に次のWBCまでの色んな国際大会や世界の野球を楽しむ人を増やしていける4年間にしたいと思います。今後ともよろしくお願いいたしますね。
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