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Channel: 野球:海外/独立リーグ
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大丈夫かユーロ・リーグ

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 この春からスタートする予定の欧州各国の強豪によるプロリーグ、「ユーロ・ベースボール・リーグ(EBL)」の雲行きが怪しい。 昨年10月末に正式に2016年シーズンの開幕を宣言していたが、一部では10数チームの参加といわれていた球団数が思うように集まっていないようだ。参加が噂されていたフランスの名門、ルーアン・ハスキーズの投手、オーウェン・オザニックと久々に連絡をとると、フランスからはどのチームも参加しないことになったとのことだった。現在のところ、参加はドイツのレーゲンスブルク、ミュンヘン、オランダのアムステルダム、チェコのドラッシ・ブルノの4チームだけらしい。 このリーグは、ソフトバンクのバンデンハークの父親が旗振り役となって、「ヨーロッパにプロ野球を」との思いから各国のトップチームに声をかけてできたものだ。数年前からそういう話は聞いていたが、正直なところ、私は実現には懐疑的だった。 欧州随一の野球大国で2010年にトップリーグを「プロ化」したイタリアでさえ、二軍の保有、入場料の徴収を義務づけ、平日の試合開催を増やしたものの、財政負担に耐えかねて脱退するチームが続出し、結局、試合は週末のみ(しかもこの国ではサッカーとの競合をさけて日曜には試合を行わず、金曜のナイターと土曜のダブルヘッダーという有様)、入場料はとっても取らなくてもいい、というそれまでのセミプロリーグと変わらない状況に戻ってしまっている。ファームにしても、各球団が別のクラブチームに、余剰戦力を預けているだけというのが現状である。つまり、ファームチームは基本的にアマチュアで、ロースターの中に「一軍」の登録から外れた選手が混じっているという構成になっている。我々が想う「プロ野球」とはずいぶんかけ離れているのが現実のところだ。トップ国でこの状態なのに、果たして、国境を越えた国際リーグなど本当に実施可能なのかと思うのはある意味当然であろう。 そもそも、EBLはアメリカや日本のプロリーグとは根本的に違うものだ。既存のプロリーグのように、まずリーグありきで運営されるのではなく、各国リーグのトップチームが、国内リーグを消化しつつ、空いた日に試合を行う、いわばひとつの国際大会なのだ。サッカーのヨーロッパチャンピオンズリーグの野球盤と言っていい。これまでにも、各国のトップチームは毎年、ヨーロッパカップでクラブチームナンバーワンを争っていたのだが(これはこれで今年も実施されるようだ)、この短期間の大会をあるていど長期のリーグ戦にしようと目論んでいたのだろう。 しかしながら、私が知る範囲では、現場の雰囲気もまた、リーグの発足に懐疑的なものだった。イタリアの関係者に聞くと、情報がまったく入ってこないと言うし、昨年秋のプレミアで再会したイタリア野球連盟のメディア担当、シローニ氏も、「我関せず」という姿勢だった。台湾で開催されたアジアウィンターリーグの現場でも、選手たちも正直、本当に開催されるとは思っていないようだった。 そもそも「プロ」リーグとは言っても、日米と欧州とでは「プロ」の定義もずいぶんと違う。我々の感覚ではプロスポーツ選手とは、基本(もちろん、テレビ出演やコマーシャルなどの副収入はあるだろうが)競技に対する報酬のみを得ている者を指すが、ヨーロッパでは報酬をある程度もらえば「プロ」とすることが多い。野球においては、イタリアプロリーグでさえ、多くの者が野球以外に職を持っている。というより野球が「副業」であることが多い。だからこそ、ヨーロッパ各国のリーグは、試合を週末に行うのだが、そういう土壌の中、国内リーグのない平日に試合を組むというのは、選手たちに「本業」をやめろと言うに等しい。先述のオザニックも、クラブから給与を受け取り、それで生活しているが、彼自身、それは週末のプレーに対する報酬ではなく、平日の野球インストラクターとしての労働に対するものだと言っていた。こういう状況の中、選手に働いてもらうべき平日に試合を組むというEBLへの参加をクラブ側が受け入れることは難しいだろう。入場料を取ると言っても、果たして、運営費以上の収入を得ることができるかどうかはわからない。それに、クラブ側からすれば、国際リーグとなると、遠征費もバカにならない。  もちろん欧州は野球というスポーツにとって、まだまだ開拓の余地のある「ブルーオーシャン」である。これから野球ファンを増やしていき、観客動員を増やしていく可能性もある。また、欧州全域での試合開催となれば、クラブも従来以上のスポンサー収入が入るようになるかもしれない。 しかし、一方で、サッカー人気が定着しているこの地に、サッカーに比べグローバルな広がりという点でははるかに遅れている野球が、普及していく可能性にも疑問が残る。野球のグローバル研究の大家、アラン・クラインは、この点において、野球は欧州、とくに経済的に豊かな西ヨーロッパでは普及は難しいだろうと予測しているし、また、スポーツの普及という事象は、その国が近代化する過程と時を同じくして起こるもので、この時期に普及したスポーツがその後も支配的な地位を占めるという説もある。つまりは、日本が近代化した明治期にアメリカから伝わったのは野球であるし、欧州においては、それはサッカーだった。サッカーの大陸欧州に、野球が割って入るのは並大抵のことではない。 EBLは4月に開幕、各国リーグ戦内平日に2連戦を組み、各チーム18試合という、ある意味身の丈にあった規模で初年度はスタートするらしい。不安要素は多いものの個人的には、野球の復活が見込まれる東京五輪の開かれる2020年に向けて、このリーグの持続的発展を願わずにはおれない。

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