韓国で5番目に人口の多いテジョン(大田)広域市。テジョンの人口は神戸市や福岡市と同じくらいの約150万である。プロ野球ハンファイーグルスの本拠地球場がある都市であり、市内には野球部を持つテジョン高が存在する。テジョン高はク・デソンやチョン・ミンチョルなどプロで活躍した選手を輩出しており、近年ではネクセンの若手リリーフ投手のチョ・サンウをプロに送り込んだ。しかし市内唯一の野球部であるテジョン高野球部は廃部の危機にさらされている。 そもそも日本の感覚で考えると、人口150万の都市に高校野球1チームであったことすら少なく感じるが、全国に部活動として野球部を設置している高校は67校しかなく人口1000万を超えるソウル特別市でも16校のみである。室井氏のコラムにもあるように、韓国ではほぼ「トップアスリートを目指す者」のみがスポーツに取り組んでいるため、日本に比べアマチュア野球の裾野は狭くならざるを得ない。 一方で近年、裾野を広げるためにKBO主導による学生野球への支援が活発に行われ、高校の野球部の数も増加するに至った(→室井氏のコラム参照)。例えば人口100万を超えるキョンギ(京畿)道コヤン(高陽)市では2007年のチュヨプ(注葉)高野球部廃止以来、市内に野球部が1校もなかったが、今年ペクソン(白松)高に野球部が創団された。 そのような流れであるにもかかわらず、なぜテジョン高から野球部が消えようとしているのか。それは野球部の運営そのものに問題があるのではなく、テジョン高の特殊目的学校への移行と関係している。 現在テジョン高は自律型公立高等学校に分類される男子校であるが、2017年3月から共学の国際高等学校に移行となることが既定路線となっている。それに伴う入試選抜方式の変更、及び国際高等学校の教育課程等の事情により野球部を存続させるのが難しい状況にある。 以前、ポハン(浦項)製鉄工業高が特殊目的学校に移行した際には、同じ私立の系列校であるポハン製鉄高に野球部とサッカー部が移管されており、テジョン高に関しても市内の他の高校に野球部を移管することができれば、テジョン市内の高校野球部は生き残ることが可能である。実際にテジョン高のバスケットボール部は移管先の候補に名乗り出る高校が現れている。 だが、野球部に関しては移管先に名乗りを上げる高校は現在のところ1校もないため、移管の見通しすら立っていない状態である。グラウンドなど設備の問題が大きく、新たに整備するにも多額の費用がかかるためである。 もちろん韓国国内全体としては高校の野球部を増やしていく方針なので、高校の野球部が1校減ったところで大きな影響はない。だがそれが人口150万の地方都市、しかもプロ野球の本拠地の都市ということは考えさせられる部分である。 韓国では昨年開催の新人ドラフトから1次指名の制度を復活させている。1次指名とは各球団が縁故地域の高校から1人を優先的に指名する制度(ソウル圏の3球団は縁故地域を共同管理)であるため、地域間で若干の不公平が生じる恐れがある。勿論その可能性を極力排するように縁故地域を分けているが、それでも人口、特に若者人口の中央流出が続く中で公平性を維持することができるのかは難しい問題であり、その状態下で球団本拠地に高校野球部が無くなることは致命的問題となりかねない。 ハンファの縁故地域はテジョンだけでなくチュンチョン(忠清)道等も含まれており、プギル(北一)高などの有力校もあるため1人を指名する程度であればそこまで問題にならないという説明も可能である。だがソウルなどの都市圏と比較した場合に毎年安定して有力選手を供給できるのかといえばはっきりしない部分があり、加えて本拠地に高校野球部がないというのはフランチャイズスター育成の上で象徴的ダメージが大きい。 今回の問題はKBOの支援等の問題ではなく教育機関としての高校の改変の問題であるため、野球関係者が助力できる部分は限定的かも知れない。しかし学校と行政、野球関係者が連携してテジョンに高校の野球部を残すことができるよう取り組んで欲しい。またプロ球団に対しては地域の学生野球発展のために今以上に取り組みを強化すること、KBOに対してはアマチュア野球界へのバランスの取れた一層の支援を期待したい。
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